射撃場を出てすぐのところに「F1」と書かれた看板がある。どうやらカート場のようだ。すぐ近くだというので、値段を見に行こうと思って、バイタクのオッチャンに行ってもらうことにした。
ものの2、3分でカート場に着く。結構立派なコースが出来ている。そして料金メニューが壁に貼られていた。メニューが手渡される場合は大抵外国人料金なのだが、ここはそういう区別はしないようだ。10分7ドルと手ごろだったので、やることにした。日本だったら15分くらいで5000円は最低でも取るはずだ。
料金を前金で払うと、奥の部屋に通され、レーシングスーツとヘルメットを着させられる。ヘルメットの下には汗を吸うためのマスクまで付ける念の入れ様だ。カートとはいえ、ヘルメットがないと危険なことはわかっているが、スーツまで着るとは思わなかった。
着替えてすぐカートに乗る。アクセル・ブレーキ・ハンドルだけだ。至ってシンプルだ。
エンジンが始動し、走り出す。今は自分以外のドライバーは走っていない。

ヤシの木が並ぶカート場は自分だけ!
最初は怖いのでゆっくりだが、どんどん楽しくなってくる。しかしヘアピンカーブなどでは強いG(負荷)がかかるので、これは気を付けてドライブしないと、スピン、最悪なら転倒するなと思った。
2、3周回ってだいぶ慣れてきて、ホームストレートではベタ踏み、カーブでもドリフトをちょっと使うことができるようになり、楽しさはさらに増した。
そしてホームストレートに戻った時、スタッフがグリッド位置につくように促してくる。
何事?と思いつつもグリッドに着くと、どこにいたのか、次々にマシンがグリッド位置についた。自分を含めて4台。レースをやろうということなのだ。

レース開始。グリッドに着くカートたち。オレは3番
チェッカーがふられた後、シグナルが点灯してスタート!僕は安全第一に慎重にスタートを切ると、ポールポジションだったのに、あっという間の3位になってしまった。
先頭を走っている奴は相当に上手い。かなり訓練されているドライバーなのだろう。周回遅れにされることは必定だ。
しかしレースともなると、俄然熱くなる。前の奴を抜いてやろうとか、コーナーを突いて後ろから来るドライバーをブロックしてやろうという気持ちが自然に湧く。
しかし、自分のすぐ前のドライバーが派手にスピンするのは怖かった。自分も巻き添えをくらったら、ケガもしかねない(カートでも死ぬ人はいる)。
予想通り先頭の奴には周回遅れにされるが、自分もかなり慣れてきて、激走を続けた。
しかし、青いスーツを着た、2着につけているドライバーの挙動がさっきからおかしいことに気づく。
さっきから自分の目の前やすぐ脇でスピンばかりしているのだ。そしてすぐに自分に追いついて自分にプレッシャーをかけつつ、接触ギリギリ、もしくは接触しながら自分を追い抜く、こんなことを繰り返すのだ。
自分は危ないだろ!と手を上げてアピールするが、その後も彼はこの行為を続けるので、これは「わざと」やっているということに気づく。
旅行者、果ては日本人をからかっているか知らないが、一歩間違えれば怪我をしないとも限らない。自分はコーナーを攻めつつも慎重に走行しているのだから、この行為ははっきりいって不快だ。自分は今日初めてのカート体験なのだから、こういうことを楽しめる段階ではない。
「これは一体何周がファイナルラップなのだろう?」
一度レースが終わって、またコースが空いてから走りたいな、と思っているのに、なかなかチェッカーフラッグは振られない。そしてその間にも相変わらず青のドライバーを僕の邪魔をする。
15分くらいは走っただろうか、やっとチェッカーが振られ、ピットに戻った。この時、自分は青のドライバーに対してはらわたが煮え繰り返っていた。
そしてそこには、カートを降りるなり、青のドライバーに駆け寄り、突き飛ばしている自分がいた。
2、3度突き飛ばし、文句を言うと、周りにいたスタッフや関係者8人くらいが止めに入った。自分の興奮は収まりがつかず、さらに彼の元へ行こうとしたが、すでに4人ほどに羽交い締めにされ身動きができなかった。
驚いたことに、ヘルメットを外した彼はまだ10代後半くらいのカンボジア人だった。
自分は周りのやつに「彼はわざと俺の邪魔ばかりをし続けた(英語が下手なので、ほとんど身振り手振り)」と激しく訴えると、周囲はとにかく僕をなだめようとした。僕をここまで運んでくれたバイタクの運ちゃんまでとめに入っている。
そして次の瞬間、中国系っぽい、物凄い形相をした男が今度はオレに殴りかかってくるので、彼にも止めが入り大騒動となってしまった。彼はどうやら、青のドライバーの取り巻きらしい。ここで自分は自分がやったことの重大さに気づいた。
聞けば青のドライバーはministryのbossのsonだという、マジで??大臣の息子??
「だからあなたは落ち着いたほうがいい」「I’m sorryと」「とにかく落ち着いて」とみなが口々に言うので、よほどのお偉いさんの息子なんだなと思い、落ち着くことにした。
自分はロッカールームに通され、興奮を鎮めた。レースの興奮にプラスしてこの事件。ガンシューティングの興奮より上だった。
しかし、あの中国人の形相はものすごかった。帰り際に銃で撃たれるんじゃないかと正直怯えた。
キョロキョロ周囲を見渡しながら、自分はカート場を去った。
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