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彦馬がゆく(1/18夜・当日券 渋谷PARCO劇場)


昨日『お正月 女傑版』でちょっと好い目を見た事に調子付いて、先行・一般ともに玉砕した『彦馬がゆく』の当日券ゲットに乗り出したのが今日の2時。電話の前で粘ることしばし、どういった経緯で神様が微笑んで下さったものだか、下手最端補助席とはいえ3列目の良席をゲット!
という訳で、2夜連続で観劇を決行してしまいました。一体我が家の家庭経営ってのはどのようになっているんでしょうか(笑)。

幕末の世。
動乱の日本を横目に、ひたすら写真を撮る事に注心し続けた写真師、神田彦馬。しかし、彼の写真館には、坂本竜馬をはじめとする幾多の「日本を動かす男たち」が訪れ、彦馬の家族達もその動乱の中に巻き込まれ(たり逃げ出したりし)ていく事に・・・。
三谷幸喜初期の傑作と言われるだけあって、話の骨格がまず面白い。ディテールは大分書き換えたそうですが、笑って笑ってちょっと鼻の奥がツンとしてすぐに笑って・・・というこの匙加減の絶妙さは、やはり“ミタニ”ブランドでございます。個人的には、ある意味(単なる)長編コントだった『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』より、こういう“いかにも筋立て!”というのがある御芝居の方が好みかも。

東京サンシャインボーイズ時代の初演を観ている方に言わせると、「冗長でギャグの切れが悪くてテンポが今ひとつ」らしいんですが。これが冗長でギャグの切れが悪くてテンポが悪いんだったら、初演って一体どんな奇跡だったんだよ?と頭を抱えてしまうような出来映えの、実に面白い芝居でございました。途中に休憩を挟んで3時間みっちり(噂によると、台本の厚みは約2センチ。支えなしで自立したらしい)の長い芝居だったにもかかわらず、体感時間はまさに「あっという間」。それぞれのキャラ立ちも素晴らしく、8500円というめちゃめちゃ高価なチケット代も、「よし!許す!」とばーんと腹の一つも叩きたくなるようなお芝居でございました。

出演者の殆どが芸達者で鳴らす役者ばかり。そんな中、酒井美紀ちゃんと瀬戸カトリーヌが初々しくも好演しているのが目を引きました。特に瀬戸カト、アンタがそんなにヤるとは思わなかったよあたしゃ。踊りは正直多少サムかったけど、あんな凄腕の業師ばかりの中で実に見事な芝居だったと思いますわ。

三谷幸喜氏といえば当て書きで有名ですが、今回(初演比9割は書き直したそうです)も各役者の一番色気の滲む部分をしっかり描き出して、キャラクターだけでも1時間半はモちそうな造型をしておられます。これにストーリーが巧く絡むことによって、3時間が短く感じられてしまうというマジックが発生する訳ですね。えぇ。
一番得だったのは、やっぱりおバカな長男・陽一郎の伊原剛志でしょうか。新撰組から海援隊と、人一倍節操無く人一倍脳のたりない愛すべきバカ。コドモと犬には無類に好かれ、通りを歩けば野良犬がぞろぞろ後を着いて来る・・・って、アンタはハメルンの笛吹きかい、と突っ込みたくなるようなキャラクターでございます。演じる伊原さん、無駄に長い手足をぶんぶんと振り回して、駄々っ子のような絶妙の可愛らしさでストーリーを引っ張る大活躍。某演劇雑誌で伊原さん曰く、
「でもなー、陽一郎が居なかったら神田家ってフツーの家族だよな」
うーん、まさにその通りですな(笑)。
逆に、ある意味損な役回りながら、堅実に着実に造型した結果、“劇場出てからの印象度”がぐんと強くなったのが、筒井道隆。彼が演じる次男・金之介は、バカ兄と違って学究肌の真面目人間でして。で、劇中ではこのマジメな彼がナレーションも担当する訳ですね。訥々とした喋り方と、もそもそしているようで意外としっかり通る声(正直『恋愛戯曲』の時にはびっくりしましたわよ、いい意味で)は、“物語の語り手”として非常によい感じでございました。
ちらしなどではトップクレジット扱いの筒井クン。その割には地味な役どころでしたが、彼の生真面目さが実に愛嬌たっぷりに活かされた役どころに誠実に取り組んだ甲斐あって、後からじわじわボディブローのように効いて来る印象度合いでしたな。
AB型全開、好青年→厭なヤツへの切り替わりも見事な松重豊サマ。
「結構感じの悪い坂本竜馬」
を、目力(めぢから)フルパワーで演じておられました。しかし、本当に大きいよね松重サン。前から3列目という好条件だったせいもあるんですが、下手側で仁王立ちなんてされちゃった日には、思わず
「わ、デカ」
とつぶやいてしまった私なのでございました。そういえば、伊原氏・大倉孝二にこの松重サンと、デカい役者がずらずら舞台上に揃った時には、ある種の爽快感すらございましたなぁ。
可憐な酒井美紀(鬘が似合い過ぎ)、見事な存在感の松金よね子(筒井クンが、「いつも歴史はうちの母親の脇をすり抜けていく」というような台詞を言うんですが、これがまた絶妙で。“身の丈”の事にしか興味の無い生活感溢れるたくましい女性役、お見事でございました)、ある意味卑怯(笑)な梶原善サンなどなど、どこを見ても気持ち良いくらいにぴたぴた嵌まったキャスティング。『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』の時にも思ったんですが、やっぱり“三谷幸喜”って名前のバリューは凄いよな。いくらでもいい役者をバリバリ呼んで来ることが可能な、ある意味オールマイティカードみたいなモンで。
で、そんな三谷幸喜氏が今回のタイトルロールに選んだのが、小日向文世サンでらっしゃる訳ですね。これがもう!いやもう!なんとももう!なんかこう、いちいち具体的に書くのが面倒くさくなるほどどこもかしこもいいんだこれが!
基本的に彦馬さんってのは、自宅の庭で繰り広げられる歴史のあや、みたいなモノにはあまりかかわらず、ひたすら写真機や撮影機材をいじりながら舞台上をフワフワしてるんですが。まず、このたたずまいが何ともタマラナイ訳ですわ、軽くてそこはかとなく色気があって。で、時折ふーっと入ってきてはぴしっと決める・・・かな?と思うところで肩透かしして茶々なんぞ入れてはまたふーっと引いてみたり。でも、不思議なことに、フラフラフワフラしているのに、“神田家の家長”としての求心力はしっかりあって、いつでも空気がふーっと彦馬さんの方に向かって収斂して行く気配が舞台上に満ちていて。
小日向文世さんを舞台で拝見するのはこれが初めてなんですが、いやもう凄いなぁとひたすら圧倒された3時間でございました。素敵。うっとり。

いやぁ、「ダメで元々!」の意気込みで当日券アタックして本当に良かった!面白い芝居は気持ちを豊かにしてくれるよなぁ・・・と、寒風吹きすさぶ中、妙に暖かい気持ちで家路についたワタシでございました。し、シアワセ〜!



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