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欲望という名の電車


「観劇強化年間」と称したはいいが、いざその気になると、食指が動く芝居ってのはそうそう無いもので。仕方が無いので、ほんのわずかでも惹きを感じた芝居のチケットはとりあえず取ってみよう、と暴走したのが2月中旬頃の話。ちょうど、『彦馬が行く』なんていう面白い芝居を観ちゃったせいもあって、
「とりあえず発売されてるチケットは当たってみるべしッ」
とあれこれ手を出しちゃった訳ですね。
で、5月末から6月初週にかけて、いきなりみっちり5本の芝居を観ると言うトンでもないスケジュールが発生してしまいまして。おまけに、後から冷静になって考えてみると、たいして面白くもなさそうな芝居も混じってたりして。はぁ(溜息)。

そんな訳で、『おやすみの前に』に引き続き、“後から冷静になってちょっと後悔なんぞしてみたチケット”シリーズ第2弾、『欲望という名の電車』でございます。翻訳モノ苦手だし、蜷川苦手だし、『ガラスの動物園』苦手だし・・・と、しみじみ後悔が。おまけに、大枚はたいて取ったS席のチケット、いくらセンターとはいえ2階席だし・・・。

で、思いっきりネガティブな気持ちで向かったシアターコクーンだったんですが。あ、こりゃ意外と良かったわ、というのが正直な感想でございました。
張り出し2階席のセンター1列目は舞台を完全に俯瞰できて、下手に1階席の後方に追いやられるよりよほど観やすかったし、堤真一久しぶりに良かったし<そこかい。
や、そればかりでなく、割に平たい演出のおかげで“蜷川臭”もあまり感じずに済みましたし、何しろ盲点の寺島しのぶが素晴らしかった!

事前の評判では“蜷川演出による大竹しのぶのブランチ”ばかりがクローズアップされがちだったこの舞台ですが。今回の最大のポイントはどう観ても、大竹しのぶを向こうに回してステラを堅実に見事な存在感で演じきって見せた寺島しのぶですわな。
ちやほやアイドルお嬢さん育ちの某MT子と違って、(ルックスが地味目の)寺島嬢はきちんと文学座で基礎を培った頑張りやさん。血筋譲りの美しい声と、地味なお顔とはうらはらに結構派手なプロポーション(手足長くて胸がデカい、いわゆる“そそる体型”。大竹しのぶが気の毒であった(笑))が、普通なら違和感バリバリの筈の翻訳劇にしっかり拮抗していて、実に見応えのあるステラちゃんでした。いやいや、『時宗』で北村ハチ一輝と出てた時も良かったが、実にいいね!寺島しのぶ!ルックスの地味さから来る独特の揺れ・哀愁・ねじれみたいなモンが、女優としてもの凄い奥行きになってるよ!(また、弟が美少年なんだよなぁ寺島しのぶ。ワタシだったら絶対拗ねてグレる)

堤真一も久しぶりに魅力的でございました。
どうもこの人、実力もあるし姿かたちも好みなんだけど、ワタシの基準から行くと「惹きが足りない、華が無い」んだよなぁ。非常に好きな俳優さんなだけに、『キル』『野獣朗見参』『桜の森の満開の下』と一通り追っかけてはいるんですが(今回の『欲望』も、堤真一が出てるからチケット取った訳ね)。見れば見るほど無理が募る主役としての華の無さに、
「このヒトにピンで物語全部背負わすってのは絶対無理なのによぉぉぉぉぉ、のーしてのーしてこういうキャスティングするかのぉぉぉぉぉ」
と製作側に八つ当たりする日々が続いておりまして。
しかし、今回は大竹しのぶを相手の引きのポジション。あぁ、こういう位置だと魅力全開なのさ堤真一。一本センターが居て、それを輝かせたり対立項として立ちはだかってみたり、という所に立つと、そもそも力のある役者さんなだけに抜群で(そういった意味では、最近のテレビの堤サンは割にいいのよねぇ。『やまなで』『恋ノチカラ』と、絶好の2番手ポジション)。
妻のステラを愛しながら、その姉である鼻持ちならない女・ブランチに反発しつつ惹かれてしまう粗野な男・スタンリー役。粗暴なキャラを微妙な繊細さに乗せて表現する辺りは、
「これよこれなのよ堤といえばこれじゃないのよ」
と思わず膝の上でこぶし握ってしまうようなお見事さでございました。
夏の『アテルイ』も、“さすがに御曹司”な訳の判らん華やかさにかけては抜群の染五郎の対角で、きっと魅力爆発の筈。楽しみでならん、むっふっふ。

何をやっても大竹しのぶな大竹しのぶに関しては、あまりコメントしようが無いというか何というか・・・。
いやしかし、このヒトって演出家に妙な影響を与える女優なのかも知れないなぁ。舞台上に、蜷川臭が不思議なくらい漂ってこなかったんですよ今回の舞台。演出的には割と「しのぶにおまかせ」な感じの大竹独壇場状態で(だからこそ却って、そこで両足板に載せてきっちり立って見せた堤・寺島の見事さが光った)、それがどこか、以前しばらく調子を狂わせていた(ように見えた、少なくとも私には)野田秀樹の演出と重なって見えましてねぇ。
ま、今回の企画は「大竹ブランチ」ありき、だったんでしょうから、何も言いますまい。“南部のお嬢”という気品には今一歩欠けるものの、精神の平衡を崩していくさまの見事さは流石の“イッチャッタ系女優”っぷりでございました。

騒ぐほどのモンでもないけど、事前の期待値が低かったことと席が意外に良かったこととで、存外に楽しんでしまった舞台でございました。敢えて言うならこれで1勝。『おやすみの前に』で1敗してるんで、現在1勝1敗ってとこですか。
しかし、何が驚いたかって、水曜マチネに立ち見客がズラズラ・・・若い女性が多かった所を見ると、堤ファンか?まさか六平直政ヲタって訳ではあるまいな。
(シアターコクーン 2002.5.22マチネ)



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